宮沢賢治 「十力の金剛石」より
宝石

・・・・今までポシャポシャやっていた雨が
急に大粒になってざあざあ降ってきたのです
はちすずめが水の中の青い魚のようになめらかにぬれて光りながら
二人の頭の上をせわしく飛び回って
ザッザ ザ ザザアザ ザザアザ ザザア
ふらばふれふれ ひでりあめ トパァズ サファイア ダイアモンドと歌いました
そして二人は まわりを森に囲まれたきれいな草の上の頂上に立っていました
二人は全くおどろいてしまいました あられと思ったのはみんなダイアモンドやトパァズや
サファイヤだったのです
おお その雨がどんなにきらびやかなまぶしいものだったでしょう
その宝石の雨は 草に落ちてカチンカチンと鳴りました それは鳴るはずだったのです
りんどうの花は刻まれた天河石と 打ちさかれた天河石で組み上がり
その葉はなめらかな硅孔雀石で出来ていました 黄色な草穂はかがやく猫睛石
いちめんのうめばちそうの花びらはかすかな虹を含む乳色の蛋白石
とうやくの葉は碧玉 そのつぼみは紫水晶の美しいさきを持っていました
そして それらの中で一番立派なのは小さな野ばらの木でした
野ばらの枝は茶色の琥珀や紫がかった霰石でみがきあげられ
その実は真っ赤なルビーでした!
宝石でできた美しい雨や花や小鳥たちが
待ち焦がれているものがあります
そこにやって来た 王子と友だちの子供は
それは何かと尋ねます
それは 太陽であったり露であったり
あらゆるいのちを輝かせる自然の恵みこそ
最高の宝石「十力の金剛石」だと言うのです
賢治さんの言葉のマジックに引き込まれ
二人の男の子と一緒に美しい世界に
入っていきます
賢治さんの童話の中でもとりわけ華やかで
美しい色彩の表現をしているお話だと思います
様々な鉱石を楽しんだ賢治さんならではです
よく賢治さんの童話を絵にするのはむつかしいと
読んだことがありますが その通りだと思います
実際、私ももっているのは童話全集で
絵本になってる作品は手に取りましたが
買うに至りませんでした
読む人が心に描くのがいちばん賢治さんの
世界に近いのだと思います