今年は百人一首から「秋」をいくつか選んでみました 古いかるた絵 美しい挿絵 そして 吉原幸子さんの感性で「現代詩訳」として 訳された 「百人一首」 古典になじみ少ない私にも楽しめる 大好きな本の一つです
吹くからに秋の草木のしをるれば  むべ山風をあらしといふらむ 文屋康秀
秋を楽しむ
冷たい秋風が 峰から吹きおろすと たちまちに 草は枯れ 木の実は落ち 木の葉は散って渦を巻く  むかしの人も 風をきいたろう 草木の悲鳴をきいたろう  むべなるかな 山おろしの風を 「荒し」といい 「嵐」と書くのは
秋の田のかりほの庵の苫をあらみ  わが衣手は露にぬれつつ 天智天皇     秋 稲の穂の重くみのった  田のかたわらの 仮小屋に  寝ずの番をする農民のように  わたしは一夜を過ごしている   粗い草葺きの屋根だから  夜露が 隙間からしのびこみ  ころもの裾を しとどに濡らす   そうだろうか  この袖が濡れているのは  ただ 夜露のためだけだろうか    あすは刈りとられる稲穂の波に    風がさわぐ 心がさわぐ   わたしは泣いていたのかもしれない  去ってしまった日々のために  未練な涙をながす男のように
奥山にもみじ踏み分け鳴く鹿の  声きくときぞ秋はかなしき 猿丸大夫
深まる秋に 山の紅葉も 鮮やかに色づいたころ 木々の間に散りしいた赤い落ち葉を たぶん かさこそと踏みしめながら 雌を求めて山奥へ帰ってゆく 恋鹿  その長く尾をひいた 甲高い鳴き声が 透きとおる夜気をやぶって きこえてくるとき ああ こんなときこそ  身にしみる 秋のかなしみ 生きとし生けるものの いのちのかなしみ
白露に風の吹きしく秋の野は  つらぬきとめぬ玉ぞ散りける 文屋朝康
風が吹く 秋の野の 枯れかかった草をなびかせて 秋風が しきりに吹く  そのたびに 草葉においた朝露が あたりいちめんに乱れ散る  まるで 糸を通されない水晶の玉が はらはらと とび散るように (まるで誰かが玉飾りの目に見えぬ  糸をちぎってばらまくように) きらきらと きらきらと かがやきながら