日本語に魅せられた作家
ロジャー・パルバースさんの本より

おるがんをお弾きなさい 女のひとよ あなたは 黒い着物をきて おるがんの前に座りなさい  あなたの指は おるがんを這ふのです かるく やさしく しめやかに 雪のふっている春の音のやうに
すみやかな すみやかな 万法流転のなかに 小岩井のきれいな野原や 牧場の標本が いかにも確かに継起すると いふことが どんなに新鮮な奇跡だろう

世界に誇る美しい響きの日本語

きけな神 恋はすみれの紫に          ゆふべの春の讃嘆のこゑ
萩原朔太郎
宮沢賢治

なんて美しい音色なのでしょう
(そう 日本語には音にも色があるのです)
まるで 誰かが まさに目の前で
オルガンを弾いているのが見えるようです
降ってくる雪の音は
無音の世界に近いというのに・・・

与謝野晶子
あるがままの自然の声を聴くことができた天才
誰よりも素晴らしい地図を遺してくれたのは
宮沢賢治でした 賢治はしかし 地図だけでなく
目もくらむような 光を永遠に発し続ける光源を
わたしたちに与えてくれました

万法流転とは すべてのものは永遠に変わり続ける
という意味の仏教の言葉です
自然界にはとどまっているものなど何もありません
それをきちんと理解すれば わたしたちは
自然の中で 調和して生きていくことができます

賢治にとっては 見るものすべてが標本のようでした
つまり 自然界の物や現象が 「過去 現在 未来」と
形を変えながら存在し続け「現在」に標本の形として
わたしたちの目前に立ち現れること それこそがまさに
「新鮮な奇跡」であると・・

おお 胸がふるえるほど美しい!
愛への讃美歌のようです
それにしても この短歌の
日本語の美しさは
いったいどこからきているのでしょう

ひらがなと漢字の組み合わせが 
心地よく流れるように続いて
すんなり読めるところにあります
この詩の美しさの核は 
「恋はすみれの紫」という暗喩にあります
恋は 紫色のすみれのようだけでなく
目に映った春の夕べの
紫の色のようでもあるということです

日本語を学び 
その池の深みに分け入っていくことで
ついに 底にある石の美しさをとらえた
わたしの両の目が 
そのあまりの輝きにくらみました
これこそが わたしの人生における至福の喜びです
わたしは世界中のたくさんの人たちにも
この美しさを見て味わってほしいと願っています

ロジャー・バルバース