古い詩集

詩集のページをめくりますと
今の季節に合うかなと思う
とても清らかな雰囲気の詩がありました
あまり有名な詩人ではなかったようですが
純粋な表現が美しいなあと思いました

その人が読んでくれた詩です

    「わが人に興ふる哀歌」

太陽は美しく輝き あるひは太陽の美しく輝くことを希ひ

手をかたくくみあわせ しづかに私たちは歩いて行った

かく誘ふもののなんであらうとも 私たちの内の

誘はるる清らかさを私は信ずる

無縁のひとたとへ 

鳥々は常に変わらず鳴き 草木の囁きは

時をわかたずとするとも いま私たちは聴く

私たちの意志の姿勢で

それらの無邊な廣大の讃歌を

ああ わがひと  輝くこの日光の中に忍びこんでいる

音なき空虚を歴然と見わくる目の発明の何にならう

如かない人気ない山に上り

切に希はれた太陽をして

殆ど死した湖の一面に遍照さするのに

本棚を整理して 出てきた古い文庫本
「伊東静雄詩集」
今まで何度もふえていく本の整理を
してきましたが これはいつも
捨てられずにいました・・・

私がまだ神戸に住んでいた十代の頃に
知り合った 当時大学生で
文学を学び作家を志していた青年
その人にもらった詩集です
私はまだほんとに子供で
彼の恋愛の対象になったわけでも
ありませんでしたが
時々会いに来てくれて
小説や詩の話をしてくれました
とても印象に残っているのが
その人がレトロな雰囲気の喫茶店で
この詩集を片手に小さな声で
静かに読んでくれたのです
そして読んだ後私にくれたのでした

そんな人は初めてでした 
今の時代でも詩をまじめに
読んでくれる人っているでしょうか
それがとても似合う青年だったのです 
孤独感を胸に秘め寂しげで・・
神戸を離れてから 本棚でこの詩集を
見つけるたび 素敵だったなぁ・・と
なつくしく思い出していました
遠い青春時代です

「沫雪」

冬は過ぎぬ  冬は過ぎぬ

匂ひやかなる沫雪の

今朝わが庭にふりつみぬ

籬 枯生 はた菜園のうへに

そは早き春の花よりもあたたかし

さなり やがてまた野いばらは野に咲き満たむ

さまざまなる木草の花は咲きつがむ

ああ そのまつたきひかりの日に

わが往きてうたはむは何処の野べ

・・・・・